"結晶界面工学から始まる新しい材料設計への挑戦"                   幾原 雄一



  材料の粒界や界面は、周期性の乱れに起因する特異な原子構造を有しており、完全結晶には見られない機能発現の起源となっている。このような粒界・界面の局所的な原子構造は材料の力学的特性や機能特性と密接に関係している。また、粒界・界面の極近傍にはドーパントや不純物が偏在し、これがそのマクロな特性に決定的な役割を持つことも多い。高機能材料の設計指針を得るためには、このような局所領域の原子構造や微量元素の存在状態を精確に計測するとともにその機能発現メカニズムを理解することが必要である。 近年、材料合成プロセスが精密化するに伴い、材料の微細構造も原子レベルで制御されるようになった。このような観点から、より高い分解能と精度をもつ微細構造のキャラクタリゼーション技術が必要とされる。材料の内部構造を観察する手法として、透過電子顕微鏡法(TEM)は最も有用な手法であり、原子レベルでの構造解析、ナノメ-タオ-ダ-での局所領域の組成・状態分析も合わせて行うことができ、これより得られる情報は極めて多い。また、最近のナノ計測技術の進展は目覚ましいものがあり、たとえば球面収差補正技術を駆使した走査透過電子顕微鏡法(STEM)を適用することで、粒界や界面に存在する単原子カラム一個一個について、その位置や元素の識別のみならず、局所的な電子状態の解析までが可能となりつつある。 本研究室では、最先端の高分解能電子顕微鏡法、走査透過型電子顕微鏡法、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や電子エネルギー損失分光法(EELS)を駆使して、粒界・界面の原子・電子構造を計測するとともに第一原理計算など理論計算を用いた解析を併用し、材料の機能発現メカニズムの解明とその機能特性予測を行いつつ、新しい材料設計指針の構築や高機能材料の創出に関する研究を推進している。